Entranced

心を解き放て

最近のこと[2020/01回]

街からマスクがなくなってる。ある製品がネットニュースで話題になり、それが飛ぶように売れるみたいなのとはまるで違って、主要駅近くのコンビニはもちろん、住宅街に点在するドラッグストアからもすっかり姿を消している。これはたいそうなことです。世界はコロナウイルスによって大きく混乱していて、その影響が市井の人の生活に直接的に降りかかっているのをひしひし感じます。

と、書き出したのが確か3月の頭のことで、またひさびさに日記を書きにきてる。この一ヶ月で、世界はあまりに慌ただしく、そして状況は日に日にひどく(あるいはそう感じるように)なった。その気になればいつでも書きにくることはできたけれど、 新年度で新たに進学することもあってドタバタしていたし、初めて登校する前日の夜にこれを書いてる。TVニュースで、Twitterで、Podcastで、国内外問わず、なるべく多くの情報に触れてきて今思うのだけど、僕は市井の人の声が聞きたい。アメリカの、イタリアの、スペインの、市井の人が聞きたい。どんな生活をしていて、どう世界が変わっているように感じるのか。何がつらくて、反対に何が救いか。僕が言語に堪能なら、個人のブログを探し当てられそうな検索ワードを入力して、手当たり次第に読むだろう。だから自分の声も残してみようと考えました。おいおい、おまえの記事タイトルはどうなんだ。

 

最近のこと。相変わらず、毎日の日記をiPhoneのメモに残している。この習慣がついてからか、ブログを書くペースがうーんと下がってしまった。最近のこと、2019年はひとつしか書いてないし。そこで「『三体』が途中読み」と書かれていたけど、昨日ようやく読了しました。途中読みの状態で随分放ってしまっていて、再読してみようと思ったなら、「中国人名覚えてねー!」にやられてさらに期間が空いてしまった。そうそう、この小説ハードSFなのだけど、第1章から文化大革命時のバチバチの描写で、正直面食らったのを覚えている。だから再読も面倒臭かったのだと思う。最近になってようやく、いちから読んだところ、圧倒されました。超濃密なエンタメでありながら、文章表現が詩的で美しい。様々な次元での視点の切り替わりは、小説の楽しみのすべてとすら感じさせられた。この作品が中国で生まれて、それが今僕が読むことのできる状態にあることがとても嬉しいです。あとがきまで素晴らしくて、いろいろ学ぶことがありました。[訳]としてクレジットされている大森望氏、光吉さくら氏、ワン・チャイ氏のうち、大森さんは中→日の翻訳を担当したわけではなく、他二方が原作から日本語に翻訳したものをもとに、現代SFらしくリライトする役割を振られたそう。ここらへんの話が簡単にあとがきで触れられていて、すごいなーと思った。ここまで物語に入り込めたのは、素晴らしい翻訳ありきでした。

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三体

三体

  • 作者:劉 慈欣
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: ハードカバー
 

 

そのまま続けて、本の話。最近は、現代思想と、経済にまつわる本をぐるぐる読んでます。適当に小説でも挟みたい思いがあっても、どうしても参考文献をたどる読書がやめられない。正直最近になって、一冊の本を読んでわかることよりも、わからないことの方が増えてきた。頭がいっぱいいっぱい。それでもなんとか多くを理解しようと努めます。

 

まず、面白かったのが『不道徳な経済学』。原題は『Defending The Undefendable』擁護出来ないものを擁護する、つまりリバタリアニズム的な市場原理主義ののっとると、転売屋やヤク中、ダフ屋(いまあんまりこの言葉聞かないw)等々、世間的に不道徳とされる経済活動を、我々に利益をもたらす「ヒーロー」として認められるのだという内容。リバタリアニズムという思想を知る入門書としてすごくうってつけでした。この本が1976年に発表されているというから驚きだ。とはいえ、新版として出版された本書は、通常の訳だけでなく、その内容までもが現代風にアレンジされている。そのため、読みものとして単純に面白い!

自由な市場にはどんな力が働くか。市場原理主義の経済学的合理性。自由主義とは何か、そしてそれはどう派生していくか。大きな政府と小さな政府。ある思想の上で、国や政府はどのような役割を持つか。など、ざっくばらんに学べてかなり楽しい。エッセイの集まり(だったはず)なので、好きなところだけ読めばいいというのもまたいい。オススメは、「女性差別主義者」「ダフ屋」「ニセ札作り」「中国人」あたり。そういう立場をとるかとうかは別として、読む価値ありです。

 

同時に読んでいたのが、『ニック・ランドと新反動主義』。主に、アメリカのアンダーグラウンドで支持される新反動主義について論じられていて、これもひたすらおもしろい。またまた読みものとしておもしろいのと同時に、本書を手に取らなければ知れないことが山ほどあって、数日混乱した。めちゃくちゃSF的で、こういうの読んだことあるぞ!というのが現実にどう根を生やしているのかを学べた。本書の一部分には、上記の本と同じリバタリアニズムの解説がある。ペイパルの共同創業者であるピーター・ティール、リバタリアニズムが論じられる際の多くで名前が挙がる彼は、ドナルド・トランプを指示するリバタリアンとしての大きな一面を持つ。彼の「私はもはや『自由』と『民主主義』が両立できるとは信じていない」(p.69)との言葉に集約される、リバタリアニズムの政治との距離、すなわち逃避欲求。僕はこの全てを概観することは難しいけれど、本質的に共感するところがある。一読では飲み込むことのできない教養の足りなさを痛感した。もうしばらく読んでみて、全体像をまとめたエントリを別に書きたい。とにかく、ガツンとくる本でした。

 

基本的にステイホームを心がけているので、上に挙げた三冊の他にもたくさん読んでいるけれど、ちょうどこの三冊が書きたいことと繋がっていたので紹介は以上。三体で感じ取れる、文化大革命の時代から現代への変遷を描く中での精神的背景には、加速主義の片鱗みたいなものが感じ取れた。いや、ものすごく太い軸だったりするのかも知れないけれど、とにかく。そもそも、SFというのはポップカルチャーの中でもそういう背景が前提にあるジャンルなのかも知れない。

 

ラジオは3月中は全然聞けていなかった。聞き逃した番組が多くあって悲しい。radikoのタイムフリーも一週間経てば消えてしまうし、やはりPodcastの出番の方が多い。

映画も、全然感想を書かないまま時間だけが経ってしまった。たくさん観ているのに。今年に入って観た作品で、面白かったやつを適当にあげます。『男はつらいよ』『フォードvsフェラーリ』『パラサイト』『リチャード・ジュエル』『ジョジョ・ラビット』『ミッドサマー』『1917』『初恋』『三島由紀夫vs東大全共闘』たぶん、色々抜けてますが…。特に、男はつらいよ、フォードvsフェラーリ、ジョジョ・ラビットがとても良くて、泣いてしまいました。

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コロナウイルスにまつわるあれこれ。朝出勤の際に通る薬局に、早朝から並ぶ人。スーパーでかごを消毒する人。入る店入る店の入り口に置いてある消毒液。ジェットタオルの利用を禁止する張り紙。 街を歩くだけで、いくつも変化がある。

アルバイト先がそうとう、経済的に切り詰めているのを感じている。大きな企業なので、危機的状況にあるというわけではないけれど、最も影響を受けやすい業種であることは間違いない。詳しい数字にはタッチできないけれど、自分のセクションでの利益がまるで全然上がっていない。

それから、本来マスクの着用が禁止されていたところから、「着用可」という措置を経て、着用が義務化された。加えて、マスクの購入代金を会社が負担する措置もあった。じゃあ買いに行こう!と言っても売っていないのだから、しかたねー。ただし、マスクの内側にしこむガーゼ状のもの(インナーマスクというらしい)は大量に入荷していて、それを利用しているから、それなりに劣化を防ぎながら使いまわせている、気がする…。

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3月のあたまに友人と箱根温泉に出かけた。このころのコロナ関係のニュースといえば、こういうの。

イタリアの感染者5000人超 死者200人超 感染拡大止まらず | NHKニュース

さっぽろ雪まつりで感染拡大か 専門家「あれだけ人が密集」「中止すべきだった」 - 毎日新聞

安倍内閣「支持する」43% 「支持しない」41% NHK世論調査 | NHKニュース

NY株 一時2000ドル超下落 過去最大の下げ幅 一時売買停止も | NHKニュース

このころ、韓国やイタリアをはじめとする国々の感染者数ば爆発的に伸びているのに対して、日本での感染者数は、ゆるやかに増加し、トータルで500人前後になったころ。ひとりの日本人として、「明日国内感染者が100人増えるとも思えないけれど、このまま減っていくとも思えない」と感じていた。

新型コロナウイルスの国別感染者数(中国以外) | Flourish

そんな中での一泊二日の旅行なので、色々気にかけるところはあった。3人それぞれがこまめな手洗いは心がけていたけれど、そのレベルには差があった。友人のひとりがだるさを訴えたとき、彼は「咳が出たらひとりで帰る」と言う。正直驚いて、おおげさだなーと思ってしまった。

 

そのひと月ほど後。バイトの人との間で計画されていた、観光バスを利用しての日帰り福井旅行が近づいていた。一ヶ月の間で状況は本当に深刻になってしまって、4月の頭にはこんなニュースが。

1住所当たり2枚の布マスクを配布の方針 安倍首相 | NHKニュース

現金給付は1世帯20万円に | 共同通信

「欧米に近い外出制限を」 北大教授、感染者試算で提言 :日本経済新聞

東京都 新たに118人感染確認 うち81人感染経路不明 新型コロナ | NHKニュース

このころには、国内感染者数は2000人を超え、毎日数百人ずつの増加ペースになった。状況が状況なだけに、政府が出すコメントや経済措置には多くの注目が集まり、力強い罵倒が集まるようになってきた。

また、主にテレビやSNS、テクノロジー企業の間で「STAY HOME」や「おうち時間」、「うちで過ごそう」と題した「家にとどまることを奨励する動き」がカルチャー化してきていた。

2日前になっても言い出す人間がいなかったため、僕は旅行の意を決して中止を試みる。密閉された空間で集団で長距離移動し、帰ってくることは、それだけで多くのリスクを抱えているのだ。「いまさらですが、これ本当に行きますか?」「おじいちゃんやおばあちゃんと暮らしていて、出歩かない方がいい人もいるかなと思って」と声をかけてみたら、ひとり、それに該当していてキャンセルを迷っている(できないなら行く)という人がいた。これで話がスムーズになる!助かるわー!僕はこう続ける。「だれか一人でもそういう人がいたらいっそのことやめてしまって、近場でご飯でも行こうと思ってたんですけど、ダメですかね…?あれだったらキャンセル代ぜんぶ僕が持ってもいいんで。またコロナ終わってからみんなでいける方がみんなにとって幸せな気がしてます」

結果的に、これがひとりの先輩を怒らせてしまった。し、しくじったー。4人中3人は連続して賛同してくれたのだけど、最後に返信をくれた、このグループ唯一の先輩がおこだった。旅行は最悪の形で中止になり、グループには暗雲が立ち込める…。

これ、実は僕にもかなり非がある。先輩はバスの決済を済ませてくれていたし、何より僕はこのグループに最後に招待された人間なのだ。もう少しやり方があった。反省してます。

 

例えば、アメリカの大統領選。例えば、コロナウイルスで混乱する中でのマスクの高額転売。例えば、各国の政府の対応。これらの最近毎日のように目に入るニュースを噛み砕いて理解し、考えられるだけのヒントを読書は与えてくれるのに、結局、わかりやすく困ったのは、あなたとわたしの問題だった。ひと月前の旅行で友人に感じた温度差は、今になって新しい関係に影を落としたのだ。きっとこれからも、いろんなコミュニティーでこういった話を聞くんだと思う。果たして僕はそれをどう責めよう。

有事の際は国が、人が、思想が、文化が、目まぐるしく動き、揺らぐ。その揺らぎを半目で見ている。